まあ、あの聲の美しいこと、ねえ、セリヤン様?(とハダリーは言つた。)
ええ(とエワルドは「人造人間」の見分けがたない暗黑の顏をぢつと見据ゑながら答へた)、まさに神の作品です。
では(と彼女は言った)、感嘆なさいませ。けれどあの聲がどうして生じるのかを知らうとはなさいますな。
知らうとしたら、どんな危險があります?(とエワルド卿は微笑しながら訊ねた。)
あの歌から神様が姿を消してしまはれます!――ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイブ』第三巻 地下の楽園
2024年ももう終わりということで、今年リリースされたアルバムの中から個人的によく聞いていたものをまとめておきます。
っていうか1個前の記事が「2023年に聴いた音楽まとめ」なのがヤバすぎる。
Yannis & The Yaw – Lagos Paris London (feat. Tony Allen) – EP
UKロックバンド:FoalsのYannis Philippakisによるソロプロジェクト Yannis & The Yaw。FleaやDamon AlbarnらとRocket Juice & the Moonを主宰したことでロックファンからも認知される偉大なドラマー:Tony Allenをフィーチャーした一枚だ。YannisとTony――2つの才能の邂逅は、ロック、ジャズ、ファンク、ダブ、枠組みを問わずカルチャーが溶け合う興奮の坩堝を現出させた。しかしその邂逅から間もない2020年、レコーディングの完成を待たずにTonyは79歳で没する。期せずして遺作となってしまった本作を、Yannisは5曲入りのEPとしてリリースした。こうして俺たちに残された冷たい喪失に、あたたかな光が灯されることになった。
Nubiyan Twist – Find Your Flame
UKのアフロジャズバンド:Nubiyan Twist。新加入のVo. Aziza Jayeがすぐさまフィットした4thアルバムである。必聴ナンバーは、↑でYannisとコラボした故Tony Allenをかつて導いたアフロビートの祖:Fela Kutiの子であるSeun Kutiがフィーチャーされた一曲『Carry Me』。音楽は歴史であり、歴史は変奏され続ける。もし今が金曜日の夜だというなら、このビートに身を委ねない手はない。
BaBa ZuLa – İstanbul Sokakları
トルコのサイケデリックジジイ:BaBa ZuLaの登場だ! ステージから客席へ駆け下りて全身でエレキ・サズをぶん回すこの爺さんを目黒パーシモンホールで目撃してから早10年! 今年も変わらずヒプノティックなエレクトロニック・ダブ・サウンドを俺たちに届けてくれた! いつまでも元気でいてくれよな、ジジイ!
JunIzawa – MilesTone
インストゥルメンタルバンドLITEのベーシスト:JunIzawaによるソロアルバム。昨年リリースされたROLLIN(feat. Cwodo)を毎晩聴いているが、未だに飽きがこないんだよな。
Four Tet – Three
ダンスからアンビエントまでなんでもござれのFour Tetによる面目躍如たる傑作アルバムがやってきた! きらびやかで繊細なメランコリックダンスナンバー:Daydream Repeatに酔いしれろ!
Grégory Privat – Phoenix
カリブ海クレオール文化の伝道師、仏領マルティニーク生まれのピアニスト:Grégory Privatによる新作だ。スローなナンバーにも陽気な雰囲気が漂い、精神とパフォーマンスが向上する。今年の在宅勤務で一番お世話になった一枚といっていい。
SHABAKA – Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace
サックス奏者:Shabaka Hutchingsによるソロ2作目にして、スピリチュアルジャズの金字塔的アルバムと言って差し支えないだろう(だろう)。参加メンバーも錚々たる顔ぶれで、なかでもMoses Sumneyをフィーチャーした『Insecurities』は白眉。こちらも今年の在宅勤務でお世話になった一枚だ。
Yard Act – Where’s My Utopia?
Yard ActほどUKロックらしいバンドがかつてあっただろうか? 一見して珍奇なアイデアを持ち寄り錬金術の鍋へぶち込んで煮上がった一筋のグルーヴを糸口に駆動したゴーレムが鋭すぎる風刺を延々とまくし立てているかのような楽曲群だ。皮肉と悪ふざけに全霊を傾ける姿を軽蔑し、尊敬せよ。
DEADLETTER – Hysterical Strength
曇った休日の街を歩くときにずっと聴いていた。ロンドンを拠点とするパンクバンド:DEADLETTERのデビューアルバムだ。ディストピアへの憧れと嫌悪が同居する現代パンクを体現したバンドスタンスは、オレが新海誠を愛し、同時に嫌悪する感情に通じるところがある(ない)。
Joe P – Garden State Vampire
泥酔して歩く夜、俺はこの曲を聞かずにはいられない。
Barns Courtney – Supernatural
泥酔して歩く夜、俺はこの曲を聞かずにはいられない。2
LINKIN PARK – From Zero
思春期だった俺がLINKIN PARKの鋭利なハンマーにぶち抜かれたあの日から20有余年が過ぎた。高二病を患って聞かなくなったのちも、LINKIN PARKは俺の音楽観を遠方から較正しつづけた。チェスター死去のニュースに触れたとき、俺は自分の感情の基準をどこに置けばいいのかわからなかった。このアルバムはHybrid Theoryの再来なのか? 俺がこれに熱狂するのは懐古心故だろうか? そんな葛藤を生むほどにLINKIN PARK然としたサウンドを前に、もとより言葉はいらなかったのかもしれない。俺が歩く通りにはいつも時おりLINKIN PARKが鳴っていて、それはこれから先も変わらないのだ。
Cedric Burnside – Hill Country Love
俺はアメリカのことは何一つわからないが、こういうカントリーソングが好きで好きでたまらねえ!
toe – NOW I SEE THE LIGHT
toeによる9年ぶりの新作。待ってたぜ! と言いたいところだが、前作から9年も経った気がしない。どうやら俺たちの時間は、加速している。気をつけろ! 追いつけなくなる前に走り出せ!
ZAZEN BOYS – らんど
2024/10/27、武道館。俺ははじめてZAZEN BOYSを直に目撃し、そして泣いた。そこに言葉はなかった。いや、言葉だけがあった。「MATSURI STUDIOから来ました、ZAZEN BOYSです」。坐禅は手段ではなく、結果だ。酒、諸行、性的衝動。すべては自ずから救済を拒むかのようにして、救済を切望するのである。そしてかような自身のあり方を拒み続ける熱こそがロックなのだと俺は確信する。
しろねこ堂 – 水金地火木土天アーメン
その日、小さいころ父が作ったあったかソーメンの味が不意によみがえった。
以上です。
あと、2024年によく聴いた曲をプレイリストにまとめました。
2023年以前のプレイリストは以下。