田沢温泉 ますや旅館

6月、善光寺御開帳に参じた帰りに田沢温泉ますや旅館に宿泊したのでその記録です。

田沢温泉は長野県上田市からバスで14km、十観山の山あい標高700mに位置し、飛鳥時代後半には開湯していたという記録が残る。田畑が広がるなかに、白壁の土蔵と木造三階建て四棟(登録有形文化財)の旅館建築がある。

このますや旅館は島崎藤村ゆかりの宿であり(島崎藤村ゆかりの宿多すぎない?)、『千曲川のスケッチ』にも

升屋(ますや)というは眺望の好い温泉宿だ。湯川の流れる音が聞える楼上で、私達の学校の校長の細君が十四五人ばかりの女生徒を連れて来ているのに逢った。この娘達も私が余暇に教えに行く方の生徒だ。
楼上から遠く浅間一帯の山々を望んだ。浅間の見えない日は心細い、などと校長の細君は話していた。
十九夜の月の光がこの谷間(たにあい)に射し入った。人々が多く寝静まった頃、まだ障子を明るくして、盛んに議論している浴客の声も聞えた。

とある。

島崎藤村が特別好きではないけども、これまで既に藤村ゆかりの宿2館に泊まってきた(小諸 中棚荘、湯河原 伊藤屋)身からすると、この旅館は外せないというわけなんですよ。

【建築】★★★

この日はたまたま宿泊客が少なかったそうで、旅館側の計らいで特別に「藤村の間」に宿泊させていただきました。嬉しい!

藤村は小諸塾で教鞭をとって2年目の明治32年の8月にこの部屋に逗留したそう。部屋の調度などは藤村が訪れた往時のままということで、聖域感がすごかった。
この部屋は木造3階建ての高楼最上階。高楼から見渡す湯の丸高原から浅間の山並み、山間の田園風景、渓流とともに聞こえる野鳥のさえずりが我々の遺伝子に刻まれた郷愁を誘います(私の故郷は北海道の平野部なのでもし遺伝子に刻まれていないのだとするとこれは架空の郷愁なのですが、そちらでも問題ないです)。

高楼の客室は二間続きで、外側に回廊を回した建築になっている。ぼくらは回廊があるとそれだけで興奮してしまう。旅館客室特有の謎スペース(寝室と窓の間に配置された細長い椅子とテーブルが置かれたスペースのことです)だけでも興奮するのに、それが回廊として客室を取り巻いているのだから仕方がない。

外-回廊のガラス窓、回廊-客間のガラス戸の開き具合を色々いじりながら、室内に浸潤する初夏の雰囲気を調整して執筆環境を整えることができます。

高楼の窓から寄せ棟の別館が展望でき、これも見事。素晴らしい旅館建築です。

館内は、複数棟を繋いだ入り組んだ構成、歩むたびにぎしっぎしっと鳴る黒びかりするほど磨かれた階段、3テーブル設置された広い卓球場もあり、温泉旅館として完成された建築といえます。

【風呂】★☆☆

お湯は硫黄香漂うぬる湯(38℃程度)の単純硫黄泉で、源泉掛け流し。お湯自体は良くも悪くも普通の印象。ぬる湯は衛生管理に手間がかかるそうで、全国的には減少傾向。ぬる湯好きは要チェックの旅館だ!

洗い場の黒ずんだ鏡、青く錆びた蛇口が年季を感じさせる。

露天風呂には山側に桜の木が植わっていて、春に来ると夜桜を見ながら入浴できていいかもしれない。

【食事】★★★

食事がめちゃくちゃ良かった。通常は食堂で食べるんだけど、たまたま宿泊客が少なかったおかげで部屋食にしてくれました。嬉しい!

この土地は青木三山の一つ十館山の山裾ということで、たらの芽、わらび、ぜんまい、こごみ、ふきなどの山菜がよく取れる。山菜、川魚、きのこを使った料理は絶品でボリュームもすごい。全体的に独特の味付けがあり新鮮だった。以前、岐阜に滞在した時にも同じように感じた。関東圏の旅館の懐石料理とは大いに違った印象を受ける。
あと、秋には松茸料理をやるそうで、秋にまた訪れたくなってしまった。
以下、個別の品に対する感想。

  • 山菜の煮物各種がうまい。タケノコは山椒が効いている。
  • ドジョウ、コイ、練り物の揚げ物:カリカリとし甘辛く日本酒によく合う。
  • 麹味噌とこんにゃくを立方上にまとめたもの:はじめての味。
  • いぶりがっことクリームチーズ。
  • 酢の物:焼いたブロッコリー、山菜とにんじん。ブロッコリーの焼きの香ばしさが素晴らしい。
  • 鴨だんごの鍋:蕎麦あり。甘辛く関東風の味付け。

枝豆の茶碗蒸し:ずんだ。豚の角煮が入っていて美味。

  • 刺身:鯛の昆布締め、サーモン、馬刺し。魚は肉厚で食感がいい。
  • コイの甘煮: 皮・鱗ごと煮付けているが、鱗はコリコリとした食感で軟骨のように食べられる。鱗を食すことを推奨する料理に初めて出会った。細かく切ったにんじんや芋を付け合わせに。甘辛。
  • 筍(破竹)とイワナの焼物:焼いたままの筍を麹味噌で。感動的に美味い。
  • 筍ごはん:硬めに炊き上げられており歯応えが楽しい。
  • 味噌汁:白味噌だが強めの甘味あり。

以上、田沢温泉 ますや旅館の宿泊記録でした。
露天風呂の桜が咲く春か、松茸料理がでる秋に訪れるのが良いと思います。

Good Stay.

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です